Voice ~公共サイトの担当者が語る~
No.6 『伝えるサイト』から『伝わるサイト』へ(後編)
[ 2008年12月18日 ]
寄稿
鳥取県米子市 保険年金課
実繁 浩一さん
(さねしげ ひろかず)
前編に続き、米子市の実繁さんのコラムをご紹介します。(前回のコラムを読む)
文字拡大・読み上げツールはアクセシビリティ対策に効果的か
最近、アクセシビリティに関するアンケートの項目に、「文字拡大・読み上げツールの組み込み」や「CMSの導入」があるのですが、これがどうも不思議です。
JIS X8341-3の制定前後、いろいろな業者さんから「サイトに文字拡大や音声読み上げ機能をつけませんか」と、ソフトの売り込みがありました。しかし、本当にそれは効果的なのでしょうか?文字拡大なら、ブラウザの機能でできます。音声読み上げが必要な人は、既にHPRなどを持っているはず。しかも業者さんに確認すると、「あくまでもマウス操作のできる人を対象にしています」と。
ひょっとするとこのソフト、お金がかかる割に、本当に補助が必要な人にとっては、あまり役に立たないのでは?「これだけのアクセシビリティ対策をしています」とアピールするためのツールに過ぎないのでは?さらに個人的に「自分のサイトだけよければ、それでよい」というツールが嫌いだったのも事実です。
CMSを導入しただけでアクセシビリティは向上しない
もうひとつ売り込みが多かったのが、CMS。CMSのメリットとして挙げられたのが、「アクセシビリティの向上」「HTMLの知識不要」そして「ウェブ担当者の負担軽減」。本当でしょうか?CMSにしただけでアクセシビリティが向上するはずはありません。テンプレートがアクセシブルに作られていて、はじめてそうなります。さらに、せっかくアクセシブルに作られたテンプレートでも、そこに書かれている文章がアクセシブルでなければ…
また、以前、売り込みのあったCMSには、画像に代替テキストを入力する機能がありませんでした。「どうすればいいのですか?」と訊くと、「ページ作成後に、タグを編集してください。」HTMLの知識不要、と言われた気がするのですが…さらに「CMSを導入したら、担当者の負担が増えた」という話も聞きます。代替テキストがなかったり、読み上げ順を一切考慮していないテーブル(表)があったり、誰でも簡単に入力できるからこそ、担当者は今まで以上のチェックを求められ…
「伝えるサイト」ではなく、「伝わるサイト」になっているか
どんなシステムやツールを導入しようと、アクセシビリティの基礎知識と音声読み上げへの配慮がなければ無意味になります。入力する人が多ければ、その全員にそれが求められるのです。「伝えるサイト」ではなく、「伝わるサイト」になっているかどうか。アクセシブルなサイト作りに必要なのは、理論や技術ではなく、そんな気持ちだと思っています。
5歩先を見据えながら、半歩先を歩く気持ちで
「米子市ホームページ」が、「2008年自治体サイト全ページクオリティ実態調査」でレベルAの評価をいただきました。
もちろん喜んでいるのですが、決してこれがゴールだとは思っていません。これまでの取り組みの方向性が間違っていなかったという評価であり、ようやく今、スタートラインに立てたのだ、と考えています。
制作者が飛びつきたくなるような、新しい技術が次々と登場するウェブ。しかし、その技術がどれだけ魅力的でも、アクセシブルでなければ使うべきではありません。「5歩先を見据えながら、半歩先を歩く」米子市ではこれからもそんな気持ちで、ウェブ制作を続けていきます。