レポート 公共サイト運営の最前線
第4回「ガイドラインと研修で意識改革から取り組む環境再生保全機構」
[ 2009年9月25日 ]
ゲスト
独立行政法人環境再生保全機構
総務部 企画課
藤石 寛子さん
渡邊 雅之さん
現状分析をふまえ職員の意識改革とガイドライン整備に取り組む
アライド:2008年9月に、ウェブサイトの現状分析に基づく社内研修を実施されました。
藤石:各情報館を対象にユーザビリティ及びアクセシビリティの分析を行い、分析結果に基づいて、担当職員と委託業者を対象に研修を実施しました。研修は、情報館ごと、部署ごとの温度差を埋めるのに大変有効でした。当時は担当職員だけでなく委託業者の認知度も理解度も本当にバラバラでしたので、まずは全社的な知識レベルのボトムアップによって、大きく前進したと思っています。
アライド:晩秋にかけて整備されたウェブアクセシビリティガイドラインについてお聞かせください。
藤石:ウェブサイトの現状分析において指摘いただいた事項や運営実態から見て、ERCAとして守るべき原理原則の確立が最優先と考え、ホームページ作成ガイドラインとウェブアクセシビリティ対応基準書を策定、細かなルールをすべて文書化しました。客観性と実効性を両立する内容が精査できたと思います。
ガイドラインと対応基準書は、研修を通じて使い方や目的を周知したうえ、イントラネットで共有して随時理解を深め、各情報館のヘッダーやフッターの統一やアクセシビリティレベルの維持・向上に活用しています。また各部署から外部事業者へ委託する際は、必ずこれらを仕様として提示しルールに則ってもらうようにしました。
ERCAとしての共通ナビゲーションを徹底
アライド:アクセシビリティ以外の基準はいかがですか。ガイドラインにはロゴデータの扱いやサイトメニューのナビゲーションも含まれていますが..。
藤石:ガイドライン策定後、ヘッダー・フッターもリニューアルしました。「本文へ」のリンクを常に記載する、連絡先をヘッダーに入れるといった共通ナビゲーションを守る意識は、しっかり定着してきましたね。
情報館を担当していると、コンテンツの専門性も手伝って、どうしても自分が担当する館の中で視線が閉じてしまいがちです。ガイドライン策定や研修を通じて、「ERCAのウェブサイトとしてどうあるべきか」を担当職員が同じ視点で見つめなおし、気づくきっかけになったのではないでしょうか。
アライド:研修の効果はいかがでしたか。
藤石:昨年度は、ウェブサイトの現状分析に基づく研修、ウェブアクセシビリティ配慮の重要性に関する研修、ガイドライン及び対応基準書の内容と使用方法に関する研修を実施しました。以前は正直なところ、「アクセシビリティは障害者だけを対象にした特殊な対応で、緊急性が高くはない」という誤解があり、費用対効果が見えづらい分、相応のコストを疑問視する向きも否めなかったのです。しかし繰り返し研修を実施することにより、誰もが使いやすいために「公的ウェブサイトとして必要な措置」だと、担当職員の共通理解が深まりました。
アライド:変化を実感することはありますか。
藤石:研修の講義と質疑応答を通じ、専門的な領域も含めて、各部署の担当職員の意識が相当変わりましたね。たとえば新任担当職員がページを作成する際、我々広報が口を出す前に現場で「その漢字は文字化けする可能性があるから使っては駄目よ!」などと注意し合っている姿。努力の甲斐を感じます。
同一のアクセシビリティ基準が育まれ、業者への指示を含めて標準化が進んでいることを、最近リニューアルした情報館を見ても実感しています。
人材とともに拡がる意識
アライド:職員の皆さんはどんな反応でしょうか?
藤石:昨年度に担当職員を対象実施した研修は、大好評でした。業務に直結する内容で、かつ独学ではカバーしきれない領域を仲間とともに学ぶ、貴重な場になったのではないでしょうか。自分の情報館が事例に登場する点も、学習意欲を促したと思います。悪い例として取り上げられた館はなおさら、「これは対応しなくては!」と切実に受け止めた結果が、その後の確かな行動につながっています。
アライド:研修は今後も継続されるご予定と伺いました。
藤石:ERCAは定期的に異動があるため、現担当職員が外れると知識やノウハウが薄れてしまいますので、毎年の研修による周知徹底は欠かせませんね。
異動に限らず、アクセシビリティの維持・向上には、定期的な教育が必須だとも思います。ガイドライン上の規定と運用実態のギャップも、そうしたオフラインの場で現場の声を反映しながら埋めていき、実効性を高めていきたいです。
また他方、ウェブサイト運営を通じてアクセシビリティ関連の知識・意識を修得した担当職員が他の業務へ拡がっていくことで、ERCA全体の理解度がより深まるのではと期待する面もあります。
アライド:最近企画課に加わられたお立場からはいかがですか?
渡邊:民間システムインテグレーターの出身でERCAに入社、まだ日が浅いため良くも悪くも利用者目線です(笑)。入社前はアクセシビリティを意識したことはほとんどありませんでしたが、新しい職場で得られた新しい視点を大切にしたいと思います。逆に慣れていない分、先入観を持たずに聞いたり学んだりできている面もあるかもしれません。
アライド:より利用者に近い、新鮮な視点は有益です。
渡邊:「ERCA初心者」の使い方で、どこにどんなコンテンツがあるか、使い勝手を意識しつつ遷移テストを繰り返し、わずらわしさがないかチェックしているところです。入社前も機構のウェブサイトを見て疑問点があったのですが、その感覚を忘れないうちに改善策へ反映したいと思います。
アライド:前職のご経験も活かせそうですね。
渡邊:Webアプリケーションを作る側の立場だったので、開発のスケジューリングや委託業者とのコミュニケーションに活躍できるかもしれません。業者側の苦労を知っている分、業者が「困る」点を理解し共有できる経験を活かして、「お互いよりハッピー」なパートナーシップへ近づけると期待しています。
委託業者とともに成長
アライド:委託業者との関係に変化はありましたか。
藤石:各情報館のリニューアルは入札で委託しています。この機会に業者選定にあたってはRFPとして基準書を渡しチェックツールによるテスト結果報告を出していただくようルールを設け、品質維持を徹底しています。細かな調整が求められる部分など担当職員レベルでは判断しづらい面も多少残りますが、今後は全階層・全ページにおいてぶれがないように統一していくつもりです。
アライド:業者間の温度差は縮小しましたか。
藤石:アクセシビリティへの理解度にしても、技術レベルにしても、委託業者による差異はどうしても否めません。その実態を前提としながらERCAとしてのウェブサイトクオリティを均質化するためにも、仕様作成段階でのチェック徹底やサイトリニューアルのための指針・雛形を統一していくことが重要だと考えます。技術仕様の基準統一、第三者によるチェックフロー標準化は、各情報館をERCAの顔として取りまとめる総務部企画課の課題です。
アライド:プロジェクト管理はいかがですか。
藤石:かつてはほとんど完成に近い状態で実施していた検収を、相当きめ細やかなチェックが不可欠な新ガイドラインに合わせて、グッと手前のフェイズへ持ってきました。検収作業がプロジェクトの後半だとどうしても時間が押しますから、スケジュールに余裕を持たせてゆっくりチェックできるよう、プロジェクトマネジメントを見直す予定です。納品前後で慌てるより手戻りが少ない分、委託業者にとってもメリットが出ると期待しています。
利用者の声を反映するサイト運営を目指して
アライド:一部情報館では新ガイドラインに則ったリニューアルが始まっています。
ナビゲーションも異なっていた旧「地球環境基金の情報館」(左)は、総合サイトと同じ構成・イメージにリニューアル(右)
藤石:2008年度は、新基準に基づき「ぜん息などの情報館」「地球環境基金の情報館」2館がリニューアルしましたが、さっそく使いやすくなったと好評です。
アライド:今後のご予定を教えてください。
藤石:2009年度からは、ERCAの中期計画にウェブアクセシビリティ配慮の取組みが盛り込まれました。定期的な職員研修の実施、委託業務実施時のガイドライン及び対応基準書の活用、チェックツールや第三者によるレビューを制作ワークフローへ取り入れることなど取り組んでいきたいと思います。
アライド:コンテンツ拡充などのご計画はありますか?
藤石:一部の情報館ではすでに実施しているのですが、一層の充実を図るには、もっとサイト利用者の肉声に触れていきたいと考えています。実際利用したときの使いづらさなど、企業も個人も含めて、よくご利用いただいている方はもちろん、初めてERCAサイトを訪れる方にも、ぜひ生の声をお寄せいただきたい。その上でより幅広く充実した情報館を展開できれば理想ですね。
アライド:ありがとうございました。