レポート 公共サイト運営の最前線
第1回「のーまらいふ杉並 ~試行錯誤を積み重ねて目指す本当のアクセシビリティ~」
[ 2009年4月10日 ]
ゲスト
杉並区保健福祉部障害者施策課
係長 井上恭子さん
主査 福原善之さん
「のーまらいふ杉並」を担当されて1年経って
アライド:ホームページについてご経験がほとんど無い状態でお二人とも同時に異動され、アクセシビリティというテーマに直面されたわけですが、これまでのアクセシビリティ向上のお取り組みを通じてお感じになったことはありますか。
福原:ホームページに関してもアクセシビリティについても全くの素人からのスタートでした。引き継いだウェブサイトの品質が高レベルだったので、そこにまず追いつく、理解する、というところからのスタートでした。ユーザー評価や支援者団体のヒアリング、運用会議での様々なご意見をいただきながら一つ一つ改善しているところです。その度に新しい発見や課題が見えてきて、これにはゴールがないのだなと思いながら、どんどんよくなるように工夫しながらやっています。
のーまらいふ杉並は担当者だけでできる仕事ではないと思います。情報をお寄せいただける方、応援してくれる事業者さん、運用会議のメンバーと一緒になって考え、良くしているからこそ現状があるのだと思います。色々な方と協力しながら運営しているからこそ、楽しくできていると思います。
井上:もっと職員全体にアクセシビリティが広がるといいなと思います。記事を一つ用意する際にも、例えば施設までのアクセス情報であればどのようにすれば分かりやすくできるかなど、少しでも皆に配慮してもらえるようになるといいと思います。
アライド:やはり担当になられて勉強しなければならないことは沢山あったと思います。異動で初めてホームページの担当になるという方へのアドバイスはありますか。
井上:障害のある方がどういう部分で不自由な思いをされているのかは、何らかのきっかけがあると理解しやすいと思います。接点がないとやはり理解の仕方が違うからです。私も視覚障害者団体さんを訪問した際に、ちょうど音声読み上げソフトを使っている場面を見る機会があり、こういう風に音声読み上げするのかと分かりました。それまで、音声読み上げでは情報が取得できないことがある、とは聞いていたのですが、イメージが湧きませんでした。「インターネットをこのように使っているんですよ。」とか、「のーまらいふ杉並のあるページを開くと、何度も同じ内容が繰り返し読み上げられてわずらわしいです。」などとうかがって、そういうことなのか!と思いました。やはり色々な機会をとらえて利用者の方の声を聞いたり、実際に一緒に操作したりすることも必要なのかなと思っています。
福原:アドバイスとして感じるのは、いきなり百点はとれないのだということです。作ってみて失敗して直していくことによって、どんどん良くなっていくのかな、と思います。どんなにこういうところを注意しなければならないと言われていても、実際に記事などを作ってみないと、どこがだめだったのかは分からないと思うのです。ですから取り組んでいくことが大事です。そこから始めなければ良くなっていかないと思います。
今後の取り組みは
アライド:今後、のーまらいふ杉並をどのようなサイトにしていきたいとお考えですか。
福原:開設から2年経って、改善が進んだ一方で、例えば情報の分類が分かりづらいといった問題点も見えてきており、見直しが必要と考えています。また、のーまらいふ杉並にとっては運用会議の存在も大事だと思っているので、参加メンバーで運用会議をどう活用していくのかについて、もう一度きちんと議論する必要があると思っています。
井上:百点満点にはまだまだですので、来年度以降もユーザーの方から問題点を指摘していただきながら改善していく取り組みは続けていく予定です。また、来年度は掲載する情報の分類の見直しをしながら、利用者の皆様がより検索しやすいような作りにしていきたいと思っています。事務局としては運用会議をもっと機能的にしていきたいです。
福原:のーまらいふ杉並にとって一番のライバルは冊子の「障害者のてびき」だと思っています。何か調べたいと思ったときに冊子で調べるのではなく、のーまらいふ杉並を開こうと思っていただけるようなサイトにしたいです。冊子版をなくそうというわけではなく、それくらいのレベルまでいけたらいいなと思っています。また、例えばリンクで他の関連情報へ飛びやすい、他の情報も探しやすい、というウェブサイトならではの強みも活かしていきたいと思います。それから、現在は一方通行の情報提供のサイトなので、双方向のことが少しでもできるようになればいいですね。
井上:区からの障害者の方向けの制度や施設の紹介だけではなくて、皆さんから情報提供いただいて沢山の情報が載るようになって、のーまらいふ杉並で障害者の方同士、団体同士の交流ができるようになればと思っています。
アライドでは様々な自治体様を支援させていただいておりますが、「のーまらいふ杉並」のように、毎年ユーザー調査をされ、定期的に運用会議を開いて改善策を検討し、こまめにアクセシビリティ改善を積み重ねている例はなかなかないと思います。特に高齢者、障害者の方に使いやすくしようという視点で試行錯誤しながら改善されているのはすばらしいと思います。井上さん、福原さん、ありがとうございました。