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災害時の情報受発信

第3回:自然災害に耐えうる社会を作るために

被災状況や被災者のニーズを正確に把握するための連携

自然災害が起こってしばらくすると、被災状況や被災者のニーズを把握して支援を行う段階へと移ります。このときに必要となるのがNPOやボランティア団体との連携です。特に障害者や高齢者への支援や子育て支援を行っているNPOやボランティア団体は、特殊なニーズや支援方法について知識を持っていますし、日ごろの活動によって住民との関係もある程度構築されています。そのためニーズを正確に把握でき、適切な支援をスムーズに行うことができるのです。震災後、視覚障害者支援を行っているNPOが避難所を歩き回って被災した視覚障害者を探し必要なものを聞いて回ったこと、また手話つきの震災ニュースがボランティアの手によってニコニコ動画から配信されたことなどから、支援団体の適切な対応と行動の速さがうかがえます。

こういったNPOやボランティア団体との連携において問題となるのが個人情報の保護ですが、この点については日ごろからの連携や共働によって信頼関係を構築し、さらに災害時の連携方法や情報共有の在り方について確認しておくことで解決できるのではないかと私は考えています。

また、自治体と支援団体との連携だけでなく、障害者と支援者・近隣住民のあいだで災害が起きた時の支援方法や避難場所、必要なものなどについて情報共有しておくことも欠かせません。これには障害当事者が積極的に情報発信し、支援者と密にコミュニケーションをとっておく必要があります。私は普段から近所のスーパーや飲食店を利用するときに、自分の障害の状態や助けてほしいこと、誘導の仕方などを話すようにしています。これも災害時だけでなく、日ごろからのご近所づきあいが欠かせませんね。

最後に

これまで3回にわたって、災害時の情報受発信についてお話してきました。災害時の情報発信におけるアクセシビリティの問題、またNPOやボランティアとの連携、障害者と支援者・近隣住民との連携、これらに共通することは、「普段から積極的に議論し、内容や手順を確認しておくことが最も大切である」ということです。また作成した手順や支援方法を実際に試してブラッシュアップしていくために「災害時における情報発信訓練」や「障害者・高齢者を対象にした避難訓練」を行うのも有効です。

日本は地震大国です。また台風や雪による災害も考えられます。こうした自然災害に耐えられるような社会を作るために、今一度皆で考えてみませんか。

第3回:自然災害に耐えうる社会を作るために

ウェブアクセシビリティに関する調査や講演、執筆活動等を行っているCocktailz(カクテルズ)の伊敷政英さん。先天性の弱視の視覚障害を持つ立場から様々な情報発信を行っている伊敷さんに、東日本大震災以降、視覚・聴覚障害者がどのように情報を得てきたのか、その中で見えてきた課題や、災害時の情報発信の在り方とウェブアクセシビリティの必要性についてお話いただく連載の最終回です。

災害時の情報発信に求められるアクセシビリティ

災害時における情報受発信コラムの最終回となりました。今回はこれまでのお話を踏まえて、自然災害に耐えうる社会を作るための情報受発信やコミュニケーションの在り方について考えてみたいと思います。

これまで2回のコラムで、災害時における情報受発信に大事な要素として「即時性」「アクセシビリティ」「NPOやボランティアなどとの連携」の3つをあげました。

災害時における自治体や公共機関からの情報は、被災者をはじめ報道機関や国民全体が一次情報として利用するため極めて重要です。そのため情報発信には即時性が求められます。しかし情報は伝わって初めて意味をなします。どんなに早く情報を出したとしても、その情報を受け取れない人がいたら意味がありません。携帯電話やスマートフォンから情報にアクセスする人、高齢者や障害者など、どんな環境の人にも届くように情報提供することが必要なのです。それはまさに、ウェブアクセシビリティの確保・向上が必要ということです。

特に重要な3つの配慮

特に、(1)PDFでの情報提供には細心の注意を払う。紙の資料をスキャンして作成したPDFでの情報提供は行わない。(2)画像やPDFだけではなく、可能な限りテキストやHTMLでも情報提供する。(3)映像や音声による情報には字幕や手話をつける。という3点は、災害時の情報発信において極めて重要と考えます。

PDFでの情報提供には細心の注意を払う

第1回目のコラム「3.11 その時視覚・聴覚障害者は…」で、計画停電に関する情報が紙の資料をスキャンして作成したPDFで提供され、対象地域に住む私の友人が情報を得られず困っていたというエピソードをお話ししました。音声読み上げソフトは、紙の資料をスキャンして作成されたPDF文書の内容を読むことができません。まとまった量の情報を提供するに当たりPDFを用いることがあると思いますが、その際には必ず音声読み上げソフトでも読めるよう、PDF自体をアクセシビリティ対応させるか、可能な限りHTMLでも情報提供を行うことが求められます。

可能な限りテキストやHTMLでも情報提供する

テキストは音声や点字、拡大文字、字幕などほかの形式への変換が容易であり、携帯電話からのアクセスにおいても利便性が高くなります。震災後、ある独立行政法人のウェブサイトで、放射性物質に関する質問や相談を受け付ける電話の電話番号が画像だけで提供されていました。事情を説明して一度は修正していただきましたが、現在はまた画像による情報提供になっており、代替テキストが「電話番号」となっています。このままでは視覚障害者には電話番号が伝わらず、相談することはできません。災害時の相談電話番号のような大事な情報は皆に確実に伝わるようにテキストで提供すべきと考えます。

映像や音声による情報には字幕や手話をつける

第1回目のコラムでご紹介したように、東日本大震災直後のテレビニュースには字幕も手話もありませんでした。災害時、聴覚障害を持つ人はテレビが重要な情報源となります。字幕や手話がないために、命にかかわるような情報を得られないのはとても不安ですよね。

組織全体での継続的な取り組みを

このようなウェブアクセシビリティの確保・向上は一朝一夕にはできません。組織全体での継続的な取り組みが必要になります。広報担当部署、災害担当部署、障害者福祉の担当部署、高齢者福祉の担当部署などが連携して体制を整備し、災害時の情報発信について手順やガイドラインを準備しておく必要があります。こういった体制づくりや文書の整備は普段から行っておくことが非常に重要です。

第2回:災害時に求められる「ニーズの把握」

一方、避難所では…

3月11日の震災以降、障害を持つ被災者はばらばらになりました。ある人は家族とともに避難所へ逃げました。避難所生活では周囲の被災者や、ボランティア・NPOなどの支援者とのコミュニケーションが課題となりました。宮城県に住む友人・知人から教えてもらったエピソードをご紹介します。

視覚障害を持っている被災者は避難所の様子がつかめず、トイレや食料配布の場所をいちいち教えてもらわなければなりませんでした。「何度もお願いしたり、夜中に家族や隣の人を起こすのは申し訳ない」「人に迷惑をかけたくない」などの理由から、水分をとることを控えたり、一日中あまり動かないようにしている、という方もいました。もし私が避難所で暮らすことになったとしたら、特に日が浅いうちは周囲に遠慮して、あまり動かないようにしていたかもしれません。この方はその後、家族や避難所のスタッフと話し合って、一人でトイレに行けるような壁沿いの動線を確保するなどの配慮がされるようになりました。

また聴覚障害をもつ人の場合、食料や物資の配布を知らせる支援者の声が聞こえなかったり、そもそも避難所に聴覚障害者がいることに気付いてもらえず適切な支援が受けられないケースがあったそうです。見た目ではその人が聴覚障害を持っていることが分かりにくいため、まずは避難所に聴覚障害者がいることをスタッフに理解してもらうことから始めていました。そのうえで、筆談を用いて必要なものを聞き取りしたり、炊き出しや物資の配布情報を大きな文字で書いて壁に張り出すなどの配慮がされるようになりました。

さらに、知的・発達障害や自閉症の子供がいる場合、子供がパニックを起こしたり、突然大きな声を出すなどしたため、周囲の目が気になって避難所にいられなくなり、壊れた自宅で生活している、という方々もいました。

このように、障害を持つ被災者や家族への支援には、周囲との適切なコミュニケーションが欠かせません。直接コミュニケーションをとることによって必要な支援の内容や方法を聞き取り、その人にあった配慮がなされるようになっていきました。

大切なのは「連携」と「コミュニケーション」

これまでお話ししてきた事例から、災害時の障害者支援には「連携」と「コミュニケーション」が欠かせないことがわかります。自治体とNPOなどの支援団体が連携する。そして当事者と支援者が密にコミュニケーションをとる。こうやって書いてみると、とても当たり前のことですね。そしてこのことは、障害者の支援だけでなく、被災者支援全般に言えることです。

しかし、言うは易し。連携とコミュニケーションを実際に行おうとすると、災害がおこってから急に連携しようと思ってもうまくいきません。平時から、自治体と支援団体がお互いに何ができるかを議論し、体制の整備を続けていくことが最も大切なのではないでしょうか。

第2回:災害時に求められる「ニーズの把握」

ラジオを集めて送る

「3年間お世話になった東北の方々に何かしたい。でも自分が今被災地へ行ってもなにもできない。むしろ足手まといになるだけ。自分に何ができるか。」

と考えていた4月のある日、宮城県視覚障害者福祉協会に被災状況を問い合わせたところ、「社会福祉法人日本盲人福祉委員会が岩手、宮城、福島の各県に支援対策本部を設置し、避難所をまわって視覚障害者がいるか、必要なものは何かなどを聞き取りしている」と教えていただき、さっそく連絡をしてみました。

すると、仙台市内についてはほとんどの視覚障害者が自宅で生活できており、避難所で暮らしている人はごくわずかであること、地震でめちゃくちゃになった家の後片付けについての支援依頼が多いことをお伺いしました。

そして、日常生活に必要なもののうち、白杖や音声時計などはメーカーや点字図書館からの支援で十分足りているが、ラジオが不足している。自分で情報を得るにはラジオがあるとよい、ということをお伺いしました。

その後1週間ほどで8台のラジオを集めて宮城県へお送りしました。
震災後間もない時期と今とでは、必要な支援の内容は変わってきていますので、今後も継続的に情報共有して、支援を続けたいと思っています。

被災状況の把握と個人情報保護

震災後、障害者の被災状況がなかなかつかめなかった原因の一つとして個人情報保護があげられています。個人情報保護法により、自治体は、障害者手帳を持つ人の氏名や住所を外に出すことができませんでした。障害者支援をしているNPOやボランティア団体、当事者団体は、それぞれの団体に登録している障害者のリストをもとに避難所を1件1件歩き回って障害者を探し、被災状況と必要な支援について聞き取りをしていましたが、「自治体が持っているリストがなければ障害者の安否確認すら進まない」として自治体と話し合い、「リストの用途は安否確認とニーズの把握に限定する」「厳重に管理する」などの条件を設定したうえで、障害者のリストが提供されるケースもあります。しかしすべての自治体でこのような対応がなされたわけではありません。

普段から障害者支援をしているNPOやボランティア団体、あるいは当事者団体は障害者の日常生活や、必要な支援に関する専門的な知識を持っています。自治体とNPO、ボランティア団体、当事者団体が連携することによって、障害者の特殊なニーズをいち早く、正確に把握することができるようになります。

第2回:災害時に求められる「ニーズの把握」

ウェブアクセシビリティに関する調査や講演、執筆活動等を行っているCocktailz(カクテルズ)の伊敷政英さん。先天性の弱視の視覚障害を持つ立場から様々な情報発信を行っている伊敷さんに、東日本大震災以降、視覚・聴覚障害者がどのように情報を得てきたのか、その中で見えてきた課題や、災害時の情報発信の在り方とウェブアクセシビリティの必要性についてお話いただく連載の第2回目です。

はじめに

東日本大震災の後、被災した方々はさまざまな場所で避難生活を送っています。そして被災自治体の職員の方々は住民の状況を把握し、ニーズをつかみ、物資を届けたり炊き出しを行ったり、自治体としての機能回復に向けて動き回っています。

被災者のニーズに合ったきめ細かな支援を行うためには、被災者の状況やニーズをいかに正確に把握するかが大変重要です。しかし今回の震災では特に、障害者の被災状況の把握が困難でした。そこでこのコラムでは、災害時の障害者支援における状況把握の課題についてお話しします。

3年間お世話になった東北に何ができるか?

コラムの「第1回:3.11 その時視覚・聴覚障害者は…」でも書きましたが、私は3年ほど仙台に住んでいた経験があります。当時の友人・知人は今でも仙台で暮らしており、3月の震災で多くの人が被災しました。

震災直後の安否確認にはTwitterが便利に使えましたが、その後、避難生活を送っている方々の状況や、避難生活の中で必要なものなどの情報はなかなか集まりませんでした。

被災自治体でも、障害者の被災状況の把握は困難だったようです。震災1か月後ぐらいから、「障害者の被災状況把握が進んでいない」という内容の新聞記事が出ていました。震災後、各地の避難所や自宅などで避難生活を送っている障害者の現状や支援のニーズを把握できていないという内容の記事です。

第1回:3.11 その時視覚・聴覚障害者は…

テレビニュース、計画停電、原発事故の情報が得られない

震災当日の夜から、すべてのテレビ番組は地震や津波、被災状況に関する報道になりました。私はテレビとラジオを両方つけて、さらにTwitterとmixiを使って情報収集していました。すると、聴覚障害を持つ知人が、「僕たちはテレビからしか情報を得られないのに、テレビニュースには字幕がなくて困る」とTwitterでつぶやいているのを見つけ、テレビやラジオで流されていることをできる限りつぶやくようにし、また「記者会見や報道には字幕をつけてほしい」という内容のつぶやきもしました。ほかにも多くの聴覚障害者や支援者から同様のつぶやきがあったようです。数日たつとボランティアの手によって、震災のニュースを手話通訳した動画がニコニコ動画で配信されるようになりました。その後政府の記者会見やNHKの震災関連ニュースなどでも手話や字幕がつけられるようになっていきました。

また首都圏では計画停電や特別ダイヤによる鉄道運行が行われるようになりました。さらに福島第一原子力発電所の事故が深刻化してくるにつれ、大学や出版社から原発の仕組みや放射性物質に関する情報が提供されました。ところが、こういった情報はPDF文書として発信されることが多く、視覚障害者には伝わりにくいものとなってしまいました。全盲の視覚障害を持つ友人は、自分が住んでいる地域での計画停電のスケジュールを知りたいと思っていたのですが、該当する資料は紙の資料をスキャンして作成されたPDF文書だったために情報を得ることができず、Twitterで「どなたか見える人、教えてください」とつぶやいていました。するとこのつぶやきに最初に答えたのは、聴覚障害を持つ彼の友人でした。視覚障害者と聴覚障害者がTwitterでやりとりし、必要な情報をシェアすることができました。

また1歳半の子供を持つ全盲の友人は、「放射性物質に関する基本的な知識や子供への影響について知りたいけれど、ウェブサイトには断片的な情報しかないし、まとまった情報はPDFでしか出ていなくて…」とこぼしていました。東京都水道局の水から放射性物質が検出され、1歳未満の子供への摂取制限が発表された頃だったので、かなり不安だったのだろうと思います。彼はネットで調べられるだけ調べたうえで、自分が知りたい情報が書いてありそうなPDFや画像の資料を集めてご両親や友人に説明してもらっていました。

災害時の情報発信に求められる「即時性」と「アクセシビリティ」

3月11日から数日間を振り返ると、まずソーシャルメディア、特にTwitterがとても便利だったと感じます。理由としては、デマや誤情報もありましたが、それでも多くの情報が即時性を持ってもたらされたこと、またその情報がテキストだったことが考えられます。テキストによる情報はパソコンだけでなく携帯電話、テレビのデータ放送など多くの環境で利用することができます。音声や点字、拡大文字への変換も容易であり、災害時の情報発信には最も適した形式です。

また情報支援プロボノ・プラットフォーム(iSPP)が7月26日に公開した調査結果によると、震災当日以降役に立った情報サービスについて「自治体」と答えた人が多くいます。この結果からも、災害時における自治体からの情報発信がいかに重要であるかうかがえるでしょう。

災害時の情報発信には当然即時性が求められます。まずは情報を出すことが先決です。情報があれば、たとえそれを読めない人がいたとしても、家族や友人、あるいはソーシャルメディアを通じて情報を知ることができます。したがって「アクセシビリティが確保されない形での情報提供をしてはいけない」とは言えません。

しかし、そこにはタイムラグが生じてしまいます。情報へのアクセシビリティが低いということは、アクセシブルな情報を必要としている障害者に対する即時性を欠いてしまっていることを認識しなければなりません。情報弱者といわれる視覚障害者、聴覚障害者は災害弱者でもあります。こういった人々にも正確な情報をできる限り早く届けるためにはやはり、ウェブアクセシビリティの確保が欠かせません。ウェブアクセシビリティの確保は継続的、組織的な取り組みが必要となるため一朝一夕にはできません。普段から体制づくりを進め、災害時における情報発信の手順やガイドラインを整備していることが必要になります。

日本は地震大国です。台風もやってきます。7月下旬には、新潟県や福島県で豪雨によって河川が氾濫し多くの方が避難を余儀なくされていました。今こそ、災害時の情報発信の在り方、アクセシビリティの重要性について考え、議論し、行動を始める時ではないでしょうか。

参考リンク

第1回:3.11 その時視覚・聴覚障害者は…

ラジオを聞いて様子を見る

激しい横揺れが2、3分続いたでしょうか。揺れが収まってくると私はすぐラジオを付けました。ラジオからは「落ち着いて行動してください。頭を守ってください。火を使っている方は揺れがおさまってからガスを止めてください。」といったアナウンスがされていました。荒い息遣いをしながらも冷静な呼びかけをしようとするアナウンサーの声に少しずつ落ち着いていきました。一緒に打ち合わせをしていた方々はマンションのドアを開けたり、家族へ連絡を取ろうとしたりしていました。

すぐに外へ出るのはかえって危険だと感じ、そのままラジオを聞いて1時間ほど様子を見ていました。宮城県で震度7の揺れがあったこと、大きな津波が来ていることを聞いて、「大変なことが起きた。これからどうなるんだ。」と感じていました。「大津波情報」という聞きなれない言葉に違和感もありました。自分の目で周りの状況を把握することはできないので、とにかくラジオの情報を頼りにしていたことと、一緒にいた方に外の様子を細かに教えてもらっていました。幸い近所には目立った影響はないようでした。

Twitterとmixiで情報収集しながら歩く

しばらくして、打ち合わせをしていた方5人と帰宅することにしました。一時はマンションに一晩泊ることも考えましたが、自宅で留守番をしているねこが心配だったのと、自宅でしなければならない仕事が残っていたからです。今いるのは東京都目黒区。電車はすべて止まっています。私が住んでいる杉並区まで歩いて帰ろうと、まずは新宿を目指して歩きました。

都内は人であふれていました。余震が続く中、家族や友人の安否が気になり電話をかけてみましたがつながらず、メールを送っても返事は帰ってきませんでした。そんな中Twitterとmixiはいつものように使うことができました。そこでまずは自分自身の無事をつぶやき、何人かの友人の無事も確認しました。その後も主な情報源はTwitterとmixiでした。「○○中学校が体育館を開放しているよ。」「うちのトイレ使ってください。」「新宿駅は大混雑している。今新宿に向かっている人は気を付けたほうがいいですよ」など、帰宅困難になった首都圏の人々をサポートするような情報、また「大津波がきて街を根こそぎさらっていった」「○○ビルの隣で火事」など被災状況を伝えるような情報がたくさん流れていました。テレビやラジオで情報収集できない状況の中、こういったソーシャルメディアからの情報は大変役に立ちました。

緊急避難所から仙台の友人の無事を確認

3時間ほど歩いて新宿駅に着いたときにはすでに日が暮れていて、疲れもピークに達していたため、一緒に歩いてくださった方々と別れ、私は一人都庁内の緊急避難所で一泊することにしました。緊急避難所にはテレビがつけられていてそこからある程度の情報はわかりましたが、被災地の状況に不安と恐怖を感じて見ていられませんでした。私は仙台に3年ほど住んでいたこともあり、視覚障害を持つ友人もたくさんいます。「彼らは見えない中で今自分が置かれている状況をどのぐらい把握できているだろうか。家族や職場の仲間、近所の人たちと一緒にいられたら情報は得られるだろうけれど、一人でいる人もいるんだろうなあ。」と、彼らの安否がとても不安でした。そこで、被災地でネットを使える人がどのくらいいるかはわかりませんでしたが、たとえたった一人でも誰かに伝わればと、「避難所で目の不自由な人を見かけたらどうか声をかけてあげてください。私たち視覚障害者は変化する情報を瞬時に把握することが難しいです。トイレの場所や食料の配給などお手伝いいただけると助かります」といったようなつぶやきを何度もしました。仙台に住んでいる友人の一人をTwitter上で見つけ、無事を確認することもできました。

夜遅くまでmixiで情報収集をして、少しだけ眠りました。夜中にも余震があり、地震情報を知らせるメールの着信音があちこちで鳴って、そのたびにびくっとして目が覚めました。熟睡できないまま朝が来ました。幸い私が普段使っている電車は動いていたので、朝ご飯は後回しにしてとにかく自宅へ帰りました。

第1回:3.11 その時視覚・聴覚障害者は…

ウェブアクセシビリティに関する調査や講演、執筆活動等を行っているCocktailz(カクテルズ)の伊敷政英さん。先天性の弱視の視覚障害を持つ立場から様々な情報発信を行っている伊敷さんに、東日本大震災以降、視覚・聴覚障害者がどのように情報を得てきたのか、その中で見えてきた課題や、災害時の情報発信の在り方とウェブアクセシビリティの必要性について3回の予定で連載いただきます。

はじめに

東日本大震災から間もなく6か月が経過しようとしています。震災以降、報道機関や政府・自治体、また地震や原子力発電に関する研究を行っている大学や独立行政法人などから多くの情報がウェブサイトを通して発信されています。その情報の中には命にかかわるようなもの、あるいは今後の生活や行動の指針となるような重要な情報も含まれています。しかし、このような大事な情報が伝わらない人々がいます。障害を持つ人々です。私たち障害者はインターネットの登場以来、音声読み上げソフトや画面拡大ソフト、あるいはマウスの代わりにトラックボールや専用のスイッチなどを使い、それぞれの障害の種類や程度に合わせて工夫をしながらウェブを利用してきました。ところが震災以降、ウェブを通して発信される情報の多くが、私たち障害者には利用できない形でもたらされ、その結果、必要な情報を得られず不安になったり不便になったりしています。

そこで、災害時の情報受発信のあり方を見つめなおし、改めてウェブアクセシビリティの重要性を認識していただけるような連載コラムを執筆することにしました。

第1回目となる今回は、東日本大震災当日から1週間ほどの期間を振り返って、弱視の視覚障害を持つ私や、視覚や聴覚に障害のある私の友人たちが実際に経験したことをご紹介しながら、災害時の情報発信におけるITやウェブの重要性、ウェブアクセシビリティの必要性について改めて考えていきます。

2011年3月11日「いつもの地震と違う!」

東日本大震災が起きた3月11日、私は打ち合わせのため都内のマンションの4階にいました。最初のうちはそれほど強い揺れではなかったので、いつものようにすぐ終わるだろうと思っていました。しかし30秒たっても揺れはまったくおさまらず「あれ?長いな」と思っていると、だんだん横揺れの幅が大きく激しくなってきました。「いつもの地震と違うぞ。これはまずいんじゃないか?」と心配になってきました。前後左右、そして上下にも揺さぶられて乗り物酔いのような気持ち悪さを感じながら色々なことを考えていました。「このマンションは倒壊しないだろうか。避難経路はどうなっているんだろう。無事に外に出られるかな。」「地震がおさまったら、どこへ、どうやって逃げたらいいんだろう。」「停電、ガス漏れ、火事。外はどんなふうになってしまっただろう。周りの状況をどうやって把握しよう。自分は生き延びることができるだろうか。」「確か新潟県中越地震のときもこんなふうに振幅の大きな横揺れが長く続いたよな。どこか遠くで大きな地震が起きているのかも。」「家においてきたねこは大丈夫かな。」揺れの大きさもそうですが、時間が長いことがとにかく怖かったのを覚えています。

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