求められる電子政府・電子自治体のユーザビリティ向上
第2回 電子政府・電子自治体にとってのユーザビリティの重要性
[ 2009年8月31日 ]
執筆担当
内田 斉(うちだ ひとし)
本連載の第1回では、電子政府ユーザビリティガイドラインの背景や概要について、内閣官房IT担当室から寄稿いただきました。今回は、ガイドラインのテーマである「ユーザビリティ」の概念と重要性、電子政府のユーザビリティの現状、そしてガイドラインが課題解決に向けどのような考え方をとっているのかを説明します。
1.「ユーザビリティ」とは何か
「ユーザビリティ」という言葉は、日本語では「使いやすさ」または「使い勝手」と訳されます。これらは、私達にとって馴染み深い言葉ですが、「使いやすさ」を具体的に説明したり定義したりするのは、実はなかなか難しいことです。
「使いやすい」とはどういうことかを考えてみると、「見ただけで使い方が分かる」、「使い方が簡単で間違えにくい」、「思ったとおりの結果が得られる」といったことがイメージされると思います。つまり「使いやすさ」には、操作の簡単さだけではなく、学習のしやすさや利用の効果等、様々な側面がある訳です。ユーザビリティをテーマとする代表的な国際標準規格であるISO9241-11の中でも、ユーザビリティは次の3つの要素で定義されています。
- 利用の有効さ
- やりたい作業を確実に達成できるか
- 利用の効率性
- 作業を短い時間で達成できるか
- 利用者の満足度
- 利用した人が、また利用してみたいと思うか
2.電子政府・電子自治体サービスにとってのユーザビリティの重要性
パソコンや携帯電話など、複雑な機能や操作を備えた製品が増えるにつれ、こうした製品の性能のひとつとしてユーザビリティが特に重視されるようになりました。実際、これらの製品では、使い勝手が人気・売れ行きに大きく影響するようになっています。最近では、高齢者にも使いやすいよう配慮した携帯電話「らくらくホン」の大ヒットが好例です。
電子政府をはじめとする各種ウェブサービスもまた、一般の国民・市民がウェブ画面を通じて様々な操作を行うことが想定されており、ユーザビリティは極めて重要な「サービス性能」のひとつだと言えます。申請・届出等の行政手続は、もともと手順が複雑なものが多く、オンライン申請等の操作も複雑になりがちです。さらに、オンライン申請等を使わずとも書類で手続ができる場合がほとんどですので、「書類で手続するよりも便利で使いやすい」オンライン手続でないと国民・市民に利用してもらえません。
こうして見ると、電子政府・電子自治体サービスでは、十分なユーザビリティの確保がサービス利用度に直結する重要課題であることがお分かりいただけると思います。
3.電子政府のユーザビリティの現状
それでは、実際の電子政府・電子自治体サービスのユーザビリティはどのような状況なのでしょうか。
これまで、電子政府のユーザビリティについて、本格的な調査や評価は行われてきませんでした。しかし、平成20年度に初めて「電子政府ユーザビリティ基本調査」が実施され、代表的なオンライン申請等システムのユーザビリティの調査が行われました。
図1は、その結果の一例です。このグラフは、あるオンライン申請手続について、操作に熟練した人と、初めて操作をした人との所要時間の比を表しています。一般に、実用的な製品やサービスでは初心者と熟練者の所要時間の比は4.5:1以内に収まることが必要と言われていますが、この手続では初心者は熟練者の6倍程度の時間がかかっており、「使い慣れていない人にとっては利用が特に難しい」サービスであることが分かります。このことから、このオンライン申請手続にはユーザビリティ面での様々な課題があることがうかがえるのです。
出典:「電子政府ユーザビリティ基本調査報告書」より作成
電子政府ユーザビリティ基本調査の結果、政府が提供しているオンライン申請等のサービスには、ユーザビリティ面に多くの課題があることが分かってきました。そして、ユーザビリティの低さは、オンライン申請等の利用拡大を阻害する要因になっていると考えられます。
4.電子政府ユーザビリティガイドラインの考え方
この現状認識を基に、電子政府のユーザビリティ向上を目指して作られたのが、電子政府ユーザビリティガイドラインです。
しかし、電子政府が提供する手続の内容、手順は多様であり、それらのユーザビリティについて、共通の具体的仕様や基準を示すことは困難です。特に、ウェブサービスではひとつの操作を様々な表現・方式で実現することができ、何が「正解」かを特定することが適切でない場合もあります。
そこで、電子政府ユーザビリティガイドラインでは、オンライン申請等のインタフェースについて具体的な仕様を定めるのではなく、ユーザビリティを継続的に向上させていくための取組手順を定めた「プロセスガイドライン」という形態をとっています。このコラムの第1回にガイドラインが示すユーザビリティ向上プロセスの全体像が紹介されていますのでここでは繰り返しませんが、ガイドラインが提示するユーザビリティ向上プロセスの特徴として、次の3点が挙げられます。
1)目標管理の導入
プロセス全体がPDCAサイクルの形になっており、各サービスが達成を目指すユーザビリティの目標(利用品質目標)を定めて、目標に向けた継続的な改善を図る考え方をとっている。(図2)
2)情報の公開
オンライン申請等(重点手続)を提供する各府省は、平成22年度半ばまでに「ユーザビリティ向上計画」を策定して公表し、さらに毎年の達成度評価も公表することとしている。
3)システム開発プロセスの改善
対象システムの企画段階から利用者調査やユーザビリティ要件の検討を行い、システム開発の各段階でユーザビリティのチェックを行う等、システム開発・改修プロセス全体の改善を求めている。
電子政府ユーザビリティガイドラインは、電子政府システムの発注者である府省だけでなく、設計・開発を請け負うシステムベンダー側も含めたシステム開発プロセスの変更を求めており、公共システム開発の現場にかなり大きな変革を迫る内容だと言えます。具体的には、ユーザビリティに関する目標が明確に示された上で、図2に示したユーザビリティ向上活動のサイクル毎に、設計・開発中のユーザインタフェースの評価とその結果に基づく修正、報告が求められることになります。
次回からは、電子政府ユーザビリティガイドラインが定めているユーザビリティ向上プロセスについて、段階を追って解説していきます。
図2 ガイドラインが想定するユーザビリティ向上活動のサイクル
出典:電子政府ユーザビリティガイドライン