スマートフォン・タブレットの可能性 iPadは弱視者の生活を変えられるか?
第1回:弱視者の日常生活とIT
[ 2012年2月28日 ]
寄稿
Cocktailz
伊敷 政英さん
先天性の弱視の視覚障害を持つ立場から、ウェブアクセシビリティに関する調査や講演、iPad講師などを行っているCocktailz(カクテルズ)の 伊敷政英さんに、「iPadは弱視者の生活を変えられるか?」と題して、3回の予定で連載いただきます。
はじめに
iPhoneに代表されるスマートフォン、そしてiPadに代表されるタブレット端末はこの2,3年で急速にユーザーを増やしています。これらの新しい端末は、直感的でスマートな操作性と、たくさんのアプリによって自分好みにカスタマイズできることを武器に多くのファンを集めています。指でさっと操作する姿も、今ではすっかり見慣れたものになりました。昨年4月に発売されたiPad2は、初代iPadよりさらに薄く、軽くなり、持ち運びが便利になりました。
そんなiPhoneやiPadには、視覚や聴覚に障害を持つ人が便利に使うためのアクセシビリティ機能が最初から搭載されています。また、10月にリリースされた最新OSであるiOS5では、上肢に障害を持つ人が使うための機能も追加されました。このアクセシビリティ機能によって、障害者のIT利用、そして日常生活はどのように変わっていくのでしょうか。
本コラムでは、スマートフォンやタブレット端末のアクセシビリティ機能とその使われ方、またこういった機器を使うことによって変化する日常について、弱視者を例にお話ししてまいります。第1回目は、まず、弱視者の見え方や、iPadを使う以前の私の日常生活とIT利用についてお話します。
弱視とは
私は、生まれつき弱視の視覚障害を持っています。何度かの角膜移植を経て、現在の視力は、コンタクトレンズを入れた状態で右が0.03です。どんなに分厚い眼鏡をかけても、どんなにいいコンタクトレンズを入れても、視力はこれ以上上がりません。左目はほとんど見えないので使っていません。
このような視力の私が、日常生活をどのように送っているのか、IT利用、外出、読書の切り口でお話ししていきます。
弱視についてもう少し説明します。「弱視」の定義はとても流動的なのですが、「メガネやコンタクトレンズを使用して矯正しても十分な視力が出ない状態」というのが一般的のようです。そのため、「裸眼だと視力0.05だけど、コンタクトを入れると0.8になる」という場合には弱視とは言いません。
厚生労働省の平成18年身体障害児・者実態調査によると、日本には視覚障害者が31万人おり、そのうち20万人が弱視です。これらは主に身体障害者手帳を持っている人の数であり、実際にはもっと多くの視覚障害の方がいると思われます。例えば社団法人日本眼科医会が米国の視覚障害の定義に基づいて推計したところ、「ロービジョン(良い方の矯正視力が0.1以上0.5未満)」の人は144万9千人、「失明(良い方の矯正視力が0.1以下)」の人は18万8千人おり、日本の視覚障害者は約164万人となっています。(報道用資料「視覚障害がもたらす社会損失額、8.8兆円!!」、PDF形式、850KBより)