第8回A.A.O.セミナー講師 特別コラム
No.3 ウェブとメールで視覚障害者の生活はきっともっと便利になる
寄稿
全国視覚障害者情報提供施設協会
外部専門委員 南谷和範さん
(みなたに かずのり)
ウェブ・メールサービスの提供を検討していらっしゃる方に
ここまで、オンライン化を推進すると視覚障害者にとってどんなメリットがあるかを、私の個人的な体験を中心に書いてみました。
最後に、若干一般論的な観点から補足説明をしたいと思います。つまり、同じ視覚障害者と言っても、ITには人それぞれ得て不得手があります。私はITの活用が好きな人間だと自負しています。そんな私ですらウェブ上のフォームにたくさんの項目を入力していくのは、苦手でストレスのたまる作業だと感じてもいます。ウェブなんて真っ平という人もいるでしょう。
そこで、視覚障害者を対象とするウェブ・メールサービスの提供を検討していらっしゃる方にはおおよそ以下のような3段構えを検討いただければと考えています。公共団体のサービスを事例にして話を進めます。
Aコース(上級コース):
利用者(視覚障害者)側での操作が少し複雑になってもいいので、できる限りのことをオンラインで可能にする。理想は役所に一切出向かなくてもすべての手続きができてしまうシステムでしょう。視覚障害を有する利用者に限らず、住民サービスのオンライン化は近年の動向です。
先ほどウェブ上のフォームにたくさんの項目を入力していくのは、ストレスのたまる作業だと書きましたが、それでもウェブで手続きができるなら私は挑戦します。半分は意地というところもないわけではありませんが、役所まで出かける往復の時間まで考慮すると、手元でウェブ入力できてしまうのは、やっぱりうれしい話です。
とにかく、住民サービスのオンライン化を企画するときには、必ずアクセシビリティを考慮していただきたいという要望があります。ただし、このAコースにチャレンジする利用者(視覚障害者)はそんなに多くはならないでしょう。視覚障害者は全員このサービスを利用するに違いないというような前提で話を進めるのは禁物です。
Bコース(一般コース):
利用者(視覚障害者)側で何か自発的にいろいろ行動を起こさなくても基本的な情報を得られるような仕組み。ここまでウェブ、メールというようにウェブとともにメールも意識して話を進めてきました。利用者の側で積極的にPCを操作して情報を探索しなくてはならないウェブはどうしてもハードルが高くなりがちです。ボーッとしていても情報が送られてくるメールの方が一般の利用者にとっては便利でしょう。
たとえば、不審者情報についての防犯メールを住民に配信するサービスはすでにいろいろな自治体で行われています。こういうメール配信サービスを広報などにどんどん拡張してもらえれば楽に情報収集ができてありがたいところです。ただし、「ボーッとしていても情報が送られてくる」というのがメールの長所ですが、それは不要な情報を送りつけられかねないということでもあります。メールによる情報の配信に際しては、情報の取捨選択を意識しておくことも重要でしょう。たとえば、広報をメールで配信するという例で言えば、紙媒体の広報をそっくりそのままメールにする必要はあまりないと思われます。
Cコース(誰でもコース):
繰り返しとなってしまいますが、ITは誰でも自由に使えるものではありません。Aコースの利用者はそんなに多くはならないだろうと書きましたが、Bコースでも全員利用できるものではないはずです。誰でも取りこぼしなくサービスが受けられるようにマンパワーでの柔軟な対応はやはり欠かすことのできない要素だと感じております。サービスのオンライン化には、人件費の削減というメリットもありますが、マンパワーでのサポートが皆無になってしまうのは怖い話だと感じています。
以上、細かい体験のことから抽象的な方針のことまで雑多な話を書いてきました。はっきりいえることは、ウェブとメールで視覚障害者の生活はきっともっと便利になる、これは確実です。ぜひウェブやメールの積極的活用を検討していただければと考えるしだいです。