繰り返されるCMS導入プロジェクトの失敗
第3回:プロジェクトマネージメントのスキル
第1回目にCMS導入業者について二つの大きな問題があることを申しあげました。一つは、要求仕様をまとめる能力の問題、もう一つはプロジェクトマネージメントのスキルの問題でした。前回は、一つ目の要求仕様をまとめる能力に問題があることについてお話ししました。今回は、もう一つの問題であるプロジェクトマネージメントのスキルについてお話しします。
目的、目標達成に必須のスキル
前回、ウェブサイトリニューアルの目的、目標およびリニューアルの方針を明確にすること、そしてそれを共有することが重要だというお話しをしました。プロジェクトマネージメントのスキルは、このプロジェクトの目的、目標を効率よく無駄なく完璧に達成する為の必須条件と言ってもいいものです。
これまでCMS導入プロジェクト(リニューアルプロジェクト)の失敗例、或いはプロジェクトの目的、目標は何とか達成できたものの、予定していた発注者側の工数(負荷)を大幅に超えてしまった例が数多くあり、今年もその状況は改善されていません。その原因の一つが前回ご説明した要求仕様をまとめるスキルの問題であり、もう一つがプロジェクトマネージメントスキルの問題になります。
プロジェクトマネージメントの実作業例
プロジェクトマネージメントは、大規模な開発、長期間に及ぶプロジェクトでは、それなりに高度なスキルが必要ですが、パッケージソフトの導入で1年未満のプロジェクトなら、それほど高度なスキルは必要ありません。
では、具体的にどんなことができれば良いのでしょうか。いくつかご参考として紹介します。一つは、目的、目標を繰り返し確認することです。もし、皆様が今CMS導入プロジェクトの真最中であれば、受託者であるCMS導入業者のプロジェクト責任者の会議或いは打合せの進め方を確認してみて下さい。そこで、毎回繰り返しプロジェクトの目的、目標を皆様に確認しているかどうか確かめて下さい。
また、マスタースケジュールの提示はどうでしょうか。CMS導入業者のプロジェクト責任者が、プロジェクト開始直後に速やかにマスタースケジュールを提示しているでしょうか。この最初に提示されたマスタースケジュールの取り扱いが、プロジェクトマネージメントにとってとても重要になります。
プロジェクトマネージメントには、そのプロジェクトの目的、目標を達成するために計画を提示し、その計画通りにプロジェクトを進捗させるリーダーシップが必要です。しかしながら、CMS導入業者のプロジェクト責任者の多くは、そのスキルがありません。実際のCMS導入プロジェクトでは、目的、目標をCMS導入業者が無意識に変えてしまうといったことが起こります。CMS導入業者がCMS導入自体を目的としてしまいがちなのは仕方ないことかもしれませんが、それではウェブサイトを使い易いものにするという本来の目的を達成できなくしてしまう恐れがあります。
役割分担の明確化
では、どうしたら良いのでしょうか。まず、発注者は誰がプロジェクトマネージメントを担当するのかを明確にする必要があります。発注者側がプロジェクトマネージメントを行うのか、受託者が行うのか、つまりCMS導入プロジェクトに関する役割分担を明確にしておくということです。これについては、仕様書にどの程度書き込むか、どの様に記述するかが重要になります。
CMS導入業者がプロジェクトマネージメントを行うという要求仕様であった場合、業者選定で提案に関するヒアリング(プレゼンテーション)を実施する際に、プロジェクトマネージメントを担当する責任者にプレゼンを行ってもらうことが必須です。ここである程度のスキルを確認する事が出来ます。
しかし、プロジェクトが始まった途端、予定していたプロジェクト責任者が時々しか来ない、或いは期待したスキルがなかったということが発生することも考えられますので、仕様書、契約書に詳細に推進体制の条件を記述する必要があります。
発注者の覚悟
プロジェクトマネージメントは、CMS導入業者に任せっぱなしにするのではなく、要所については、発注者がマネージメントする覚悟が必要です。もし受託者が目的、目標を都度確認せずに進行させようとしたら、発注者は受託者が間違った方向に進まないよう軌道修正するしかありません。
マスタースケジュールについて受託者からの提示が速やかに行われない場合は、発注者から提示することも必要になります。
プロジェクトマネージメントがきちんと出来ているかを確認するには、どの様なプロジェクトマネージメントを期待するかを発注者が明確にしておかなければいけません。意外とこの点が曖昧なケースを目にします。
最後に
最後にもう一度大切なことを繰り返します。ウェブサイトの目的、目標を明確にした上でCMS導入プロジェクト(リニューアルプロジェクト)の目的、目標を明確にし、その目的、目標の実現の為に必要な要求仕様をまとめます。その要求仕様を正確にCMS導入業者に伝えるともに、プロジェクトの目的、目標を繰り返し伝え確認して下さい。そして、いつどんな状況に陥ろうとも、いざとなったら発注者がプロジェクトマネージメントを出来るように準備しておくことが大事です。
なかなか文章ではお伝え難いテーマだったかもしれません。皆様にとって何らかの参考になれば幸いです。
第2回:CMS導入業者の二つの大きな問題への対応
前回CMS導入業者について二つの大きな問題があることを申しあげました。一つは、要求仕様をまとめる能力に問題があること、もう一つはプロジェクトマネージメントのスキルの問題でした。今回は、これらの問題にどの様に対応したら良いかについてお話ししたいと思います。
IT業界の基本的なスキルが低下
まず、二つの問題に対する対応を考える前に今のIT業界の状況をお話しする必要があります。私は、IT業界で約30年仕事をしてきましたが、10年前あたりからIT業界のスキル低下が目立つようになってきたと感じています。IT業界に長くいる方と話をしてみるとこの点については、全員一致します。確かにIT技術発展の進度が早くなり学ばなければならない事が増加していることも確かですのでIT業界で仕事をする為に求められる技術レベルも上がっているのかもしれません。但し、私が問題視しているスキルは、高度な技術に関するものではなく、最も基本的なスキルです。ユーザーの要求を正しくヒアリングできる、潜在している可能性のある隠れた要求仕様を顕在化させユーザーに確認できるといった基本的なスキルです。このようなIT業界の状況を踏まえてどの様に対応したら良いのでしょうか。
要求仕様をまとめるスキルの問題
まず第一番目の問題である要求仕様をまとめるスキルについてお話しします。発注者の要求仕様を確認し、不明確な要求仕様を固めるといったスキルが不足する以上、発注者が正しく要求仕様を提示し、正確に伝えるということしか対応方法はありません。
それでは、どうしたら発注者は正しく要求仕様を伝えることが出来るのでしょうか。当たり前の事ですが、大前提として発注者側の要求仕様が詳細に明文化されていることです。そしてその文書が曖昧な表現でなく、具体的で分かり易いことが重要です。また、仕様書に記述した時点で要求仕様を明確にできなかった項目について、「発注者と協議の上で・・・」、「発注者の了承を得た上で・・・」といった受注者との協議を踏まえた仕様決定の方法を選択した項目については、協議を始めるまでに要求仕様を固めておくか、或は少なくとも要求仕様を決定する上で必要となるその仕様項目の目的(成果)を明確にしておく必要があります。
要求仕様内容を説明すること
しかし、発注者からみて要求仕様が分かり易い文書であっても受注者にとって分かり易いとは限りませんし、受注者側の読解力の問題もあるかもしれません。ここで申しあげたいことは、仕様書が分かり易く書かれていることを大前提とした上で受注者に具体的に要求仕様の内容を説明する必要があるということです。まず、受注者は仕様書に書かれた内容を正しく理解することに熱心ではないことを理解する必要があります。勿論、提案段階では、仕様書に沿った提案書を作成し、仕様書に書かれた内容を全て実現すると約束するでしょう。しかし、解釈の方法が異なっていたらどうでしょうか。
これまでに相談を受けたCMS導入プロジェクトのトラブルの内、受注者が仕様を読まないで作業を進めた、要求仕様を受注者の都合の良いように解釈したといった原因によるものは、数多くあり減少していないのが実情です。
目的、目標設定の重要性
では、あらためてどうしたら受注者に要求仕様を正しく理解してもらうことが出来るのでしょうか。それは、要求仕様が詳細に書かれた文書を基に何度も繰り返し説明すること以外にはありません。そしてそれを実行するために必要なことは、CMS導入プロジェクトが何のために行われるものかが明確になった目標の設定です。
CMS導入プロジェクトでは、殆どの場合ウェブサイトのリニューアルを一緒に行います。まず、ウェブサイトリニューアルの目的、目標およびリニューアルの方針を明確にすることが重要です。CMS導入は、それらの目的、目標を達成するためにリニューアルの方針に従って採用されたツールといった位置づけになります。
要求仕様の一つ一つは、リニューアルの目的、目標の達成実現の為のものになります。従って、要求仕様を説明する際には、リニューアルの目的、目標を繰返し確認することが大切になります。発注者が受注者に対して最も努力すべき事が、このリニューアルの目的、目標の共有です。お互いに異なる主張があった場合でも、リニューアルの目的、目標が一致し共有することが出来ていれば、双方の言い分のどちらがその目的に合致しているかを確認し、目的に合致した案を採用すれば良いのです。この考え方は、ウェブサイトリニューアルに特別なものではありません。私は、業務アプリケーション開発に携わった期間が長いのですが、昔から変らないとても基本的な原則であると考えています。IT関連でなくとも共同で何かを推進する際には、全て同じ考えで臨んでいます。弊社がご支援させていただいた自治体様で少しずつこの考えに基づいてプロジェクトを推進されている例も増えてきました。是非参考にして下さい。
さて、次回はプロジェクトマネージメントに関するお話しを致します。
第1回:CMS導入プロジェクト失敗の現状
プロジェクト失敗の原因は
ここ数年公共機関ウェブサイトにおいて、毎年CMS導入件数が増加しているようです。新規にCMSを導入するケースの他に、CMSの入替も増加傾向にあります。しかし、毎年弊社に寄せられる相談の中には、未だにCMS導入プロジェクトの失敗に伴う事後の対応に関するケースが多く、これについて残念ながら増加傾向にあります。
公共機関ウェブサイトとして求める基本品質の要求レベルが高くなったこと、アクセシビリティ対応の重要性についての理解が高まってきたこともその理由として考えられますが、もう一つ重要なことがあります。それは、CMS導入業者の対応が、公共機関の求めるレベルを満たしていないことです。
要求仕様の確認が曖昧なままカスタマイズ
CMS導入業者の対応の問題は、大きく2つに分けられます。その一つは、技術レベルに関するものです。CMSプロダクトそのものの機能は、年々進化しており、使い勝手の向上も進んでいます。しかしながら、実際にCMSを運用する公共機関の担当者からみるとユーザーインターフェースの点でまだ機能不足の部分が数多く残っています。したがって、どうしてもカスタマイズする必要があります。
カスタマイズする際に公共機関担当者の意向を正しくヒアリングし、要求仕様をきちんと合意した上で作業を進める必要がありますが、実際にはそのプロセスが正しく完了しないまま作業を進めてしまう場合が多いというのが実情です。公共機関担当者とCMS導入業者の間で仕様確認が曖昧なままCMS導入業者の勝手な解釈による仕様でカスタマイズを行ってしまえば、使い勝手の良いシステムになる可能性は当然のように低くなってしまいます。
プロジェクト管理を安易に考えるケースが多い
そしてもう一つの大きな問題が、プロジェクトマネージメントに関するものです。ウェブサイトに関するプロジェクトは、他の業務アプリケーションシステムと比べプロジェクト管理を安易に考えているケースが多いと感じています。業務アプリケーションシステムより難しい問題があることにCMS導入業者は、殆ど気付いていません。特にコンテンツの移行作業に関する重要性の認識が、公共機関担当者とCMS導入業者間で異なる場合が多い様です。結果として、予定していた公開日に要求仕様を満たすウェブサイトを仕上げることが出来ないために公開日を遅らせてしまうことになります。或は要求仕様を満たさないまま公開に踏み切ってしまうというケースも未だに多いのが実情です。
それでは、どうしたらこれらの問題を起こさないように出来るのでしょうか。次回は、これらの問題を起こさないための対応方法についてお話しします。